――jurer――

こちらは、田丸まひる・張河子静の三国志、堅瑜ベース策瑜リレー小説のページです
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jurer 第17話(張河)
 「雨、止まねぇなぁー」
 いくつもできた雨潦を蹴散らす。
 あの頃も、こんな日が確かにあった。
 周瑜が父に耳を塞がれて眠る頃、俺は一晩中まんじりともせず。
 不確実な夜明けを迎えたものだった。
 雨が止まずに暗いままの、そんな、うろんな朝だった。



 互いに、自分のことしか考えられない子供だった、と思う。
 周瑜は一つも、自分のことを分かってくれなかった。
 自分は一つも、周瑜のことを分かってやれなかった。
 『大丈夫。伯符は伯符のことをしなよ』
 従軍後、多分、こういうことを言われたのが一番腹が立った記憶がある。
 あんまり腹が立って、この台詞だけはやたらとしつこく覚えているのだが、周瑜が知る由もない。
 俺に気遣うような、まるで分かっていやしない言葉が、他のなによりむかついた。
 周瑜は俺を、何一つ分かっちゃいなかった。
 周瑜は俺を、何一つ分かろうとしてくれなかった。 
 「でも俺も、分かって欲しいと思うばかりだったなー・・・」
 人のいない場所を探して、最終的に厩にもぐる。
 そういえば、子供の頃も一人になりたいときはよく来ていた。
 「あいつのこと、分かりたくなかったもんな」
 周瑜の鹿毛がいたので、鬣を撫でてやる。優しい目の、馬だった。
 「お前の方が、よく分かってそうだよな」
 俺は今でも分からん。
 低く呟くと鹿毛が小さく鳴く。もう一度撫でると、なつく仕草をした。
 でも今は、分かってやりたい。
 答えが、欲しい。
 このままでは、苦しい。
 答えが、欲しい。
 何だか、泣きそうになってきた。
 「お前のこと・・・分かりたい」
 やっぱり。たまらなく、愛しい。
 だから、答えを。




 「公瑾、起きてるか?」
 返事はない。まだ寝ているのかと、少しだけ持ってきた食物を卓に置いた。
 幕舎は暗く、燭台を探す。 
 周瑜の眠る、寝台の前にあった。
 「寝てる、よな」
 明かりを灯すのはやめ、周瑜の顔を覗き込む。側に座り込み、思い立って、手を握った。
 さっきは、突き放した手だった。
 幼すぎた頃には、離れないと思っていた手だった。
 「・・・細いな、ちゃんと食ってたのか?」
 強くすると折れそうで、できるだけ優しく握る。
 あの頃は力一杯握ったって、まだ大丈夫な気がしていた。
 変わってしまったのは、どちらの方なのだろう。
 「俺に会わない間、何してた?」
 返事はないと、知りつつ聞く。
 返事はないと、分かっていたから聞けた。
 再会してすぐに尋ねそうな質問は、そういや何も聞いてない。
 「どんなことを、考えていた?」
 いつの頃からか。俺は周瑜に問うことを、恐れ始めた気がする。
 望むような答えは得られないのだと決め付けて、問うことを避けた。
 「どんな、気持ちだった?」
 その代償が、別離だった。結局俺は、何も分からないまま。
 「俺は・・・寂しかったよ。苦しくて、離れたくて、お前が去ったときにはほっとした。でもどんなに辛くても、お前がいないのは寂しかったな」
 周瑜の手を握る手が震える。
 こういう情けないところだけ、多分父とは違うんだろう。
 周瑜を理解できていた父とは、違うんだろう。
 だから、周瑜の手も震えていたことにも、気付けなかった。
 雨の音が、消える。
 消えたように、思った。
 
 「・・・たし、だって・・寂しかった・・・っ」
 
 頭を上げる。
 顔を褥に押し付けて、周瑜は震えていた。
 「公、瑾」
 「私だって・・・寂しかったよ」
 声まで震わせて。
 まるで、泣いているような声だった。
 泣いているのかもしれない。再会した後、どんなひどい言葉を投げつけても泣かなかった、周瑜が。
 「それは・・・父上が、いなくなってしまったから?」
 顔が見たくて褥をを引くと、周瑜は捕らわれない方の手で咄嗟に隠した。
 赤い唇が、戦慄いている。
 「伯符がっ・・・いなかったからっ、だよ。文台さまとは会えない時はたくさん・・ったけど、伯符と離れたことなんかっ、なかったじゃないっ」
 手を強く握り締める。折れない。弱いけれど、握り返してくる手は過去の過去にしか、覚えのないものだった。
 目の奥がじくじく熱い。
 泣き出さないように、奥歯を噛み締めた。
 「俺のこと・・・考えて、くれていた?」
 ――――ああ、もういいよ。
 「ど、どれ程考えたとっ・・思ってる!」
 どんなに傷ついても、力一杯愛したい。
 分からずにはいられない程、愛してやる。
 「俺、お前に言わなくちゃいけないことがある」
 手をどけて、赤く滲む目尻に口付けを落とす。
 「引き留めてやれなくてごめんな。追いかけてやれなくてごめんな。迎えにいけなくて、ごめんな」
 もう俺は逃げないから。
 お前のことを、教えて欲しい。



                  続く
| 張河子静 | jurer | 01:11 | comments(0) | trackbacks(0) |
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