――jurer――

こちらは、田丸まひる・張河子静の三国志、堅瑜ベース策瑜リレー小説のページです
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jurer 第16話(田丸)


 自分は、振りはらおうとした手だった。
 自分は、離したくないと思った手だった。
 離されたくない。
 伸ばした手は、簡単に突き返された。
 「ちゃんと寝てろよ」
 目を閉じる、できる限り強く。
 「うん、」
 孫策が外に出て行くまで、その足音を聞いていた。
 きりきり、きりきり、目の奥が熱い。
 目を閉じる。何もこぼれないように。


 二人ともまだ幼さが抜けきっていなかったころ、私が熱を出すたびに、孫策が様子を見に来ていた。
 「伯符、風邪だからうつるかもしれないよ」
 「大丈夫だって。お前の風邪がうつるほど柔じゃない」
 「でも、」
 「いいからお前は大人しくしてろ」
 ことあるごとに熱を出す私のそばには、いつも伯符がいた。
 私や家人がいくら止めてもだめだった。
 「冷たいの、額に当てとくと気持ちいいだろ」
 屈託なく笑う孫策を見ていると安心して、でも自分ばかり熱を出すことが悔しかった。
 「だからって、伯符が替えに行ってくれなくていいのに」
 少しでも拗ねた様子を見せると、軽く汗ばんだ髪をくしゃくしゃにかき混ぜられる。
 「いいんだよ。俺がやりたくてやってるんだから」
 「……ごめん」
 「謝るなよ」
 「うん」
 うれしいと、伯符がそばにいてくれてうれしいと、素直に思っていた。
 だってそれ以上のことなんて、なかった。
 「俺がそばにいるから、な」
 「うん」
 「大丈夫だからな」
 「うん」
 眠りにつくまで、たぶん眠ってしまってからも、ずっと手を握っていてくれた。
 ずっと手を握っていた。
 「早く治せよ」
 このままずっと、そうしていくのだと思っていた。
 文台さまが現れるまでは。従軍するまでは。


 「なんでだよ」
 伯符は、怒っていた。
 「なにが?」
 私は、分からなかった。
 「なんでお前が熱を出したら、父上のところで寝るんだよ」
 決して激情にまかせていたわけじゃない。
 ひと言ひと言絞り出すように、孫策は怒っていた。
 「だって文台さまがそうしろっておっしゃった」
 でも、分からなかったのだ。
 どうして孫策がそんなに怒っているのか、分からなかったのだ。
 「お前の看病は、俺がするのに」
 「大丈夫。伯符は伯符のことをしなよ」
 なんで、気がつかなかったのだろう。
 「父上の方がいいのか」
 「なにが」
 「俺より、父上の方が好きなのか」
 泣きそうな顔をしていたのに。
 「そんなの、」
 私はもう違うものしか、見えていなかった。
 「そんなの、分からない」
 「なんでだよ、公瑾」
 なんでだろ。
 「公瑾、」
 「ごめんね」
 珍しくあっさり熱が引いたその夜、文台さまに抱かれた。
 私が望んだ。


 何を取り返せると言う。
 自分が手を離したくせに。
 右手にも、左手にも、孫策の手はもうなかった。
 どれほど眠っていたのか分からない。
 目が覚めても、一人だった。


                    続く
| 田丸まひる | jurer | 23:22 | comments(0) | trackbacks(0) |
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