――jurer――

こちらは、田丸まひる・張河子静の三国志、堅瑜ベース策瑜リレー小説のページです
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jurer あとがき(田丸)
お疲れ様でした。

当初、こんなに長く続くと思っていなかったので、
今はもう書き上げたー!充実感でいっぱいです。
(終わらないよどうするよと言い合っていたのですよ)

周瑜がひどい子でごめんなさい。
最初の流れでは、ちょっとS入った策兄と、
未だに堅パパのことが忘れられない周瑜ちゃんという感じで、
策ちゃん押せ押せモードだったのですが、
簡単に終わらせたくなかったんです(ぉぃ
というわけで、jurerの周瑜ちゃんはなにげにひどい周瑜です。
基本的に、堅パパに出会ってからは全てが堅パパ。
(よく考えるとかわいそうな子だよー)

小さい頃は孫策の気持ちに気づいてないし(とゆか気づいても無視?)
パパ死んじゃっても策ちゃんのこと見ようとしないし、
こんな我が侭で自分勝手な周瑜、ほんとに好きですかー!?>策ちゃん

こことか↓
 「俺が、父上に似ているからか」
 孫策は、泣いていた。
 声も出せずに、目尻から涙をこぼしていた。
 「そうだよ」
この台詞とか↓
 「伯符しか見えないのに、伯符が見えない」

自分で書きながら、周瑜ひどい子……!と悶えておりました。
折角のかっちょいい策ちゃんなのに、中盤は周瑜に泣かされておりますよ。
元々わたくし、小悪魔な周瑜を書くのは好きだし、
Sな策ちゃんにいじめられる(愛故に)周瑜も好きなのですが、
今回は、ひどかったです。萌え萌えです!(違

テーマとしては、これ↓

 伯符が私を愛してくれるのと同じように、愛するなんて許されますか。
 愛していいのかどうか分かりません、文台さま。

この想い、誓いを、周瑜自身が克服できなければ、
このjurerは完結しなかったわけです。
子静さまのかっちょいい策兄の、たゆまぬ努力の結果ですよ!(拍手
わたしは引っかき回したりぐずったりする役回りでしたからー(ごめん

周瑜の、策兄に対する「好き」は、今はまだ友愛の域を超えてません。
(第八話で言ったのは、周瑜自身どうしたらいいか分かんない「好き」かな)
「愛している」のは多分まだ、堅パパだけ。
でも、誓わなくてもいい孫策に、孫策が周瑜を愛しているのと同じ気持ちを抱くようになるのも、そう遠い話ではない気がします。
ちゅーも自分からしましたし(えらいぞ

義兄弟で、恋人で、親友のふたり。
全部で繋がっていられればいいなと思います。
わたしが思うに、堅瑜との違いは、二人の関係の対等性だと思うのです。
堅パパと周瑜は、対等じゃない。
でも、策兄と周瑜は、主従の差こそあれ、対等です。
同じ視線で、一緒に成長し合っていける。
jurerのふたりが幸せでありますように。



最後にひと言。
わたし、最後に策ちゃんが死んだ場面を持ってくるつもりでした。
かわいそうすぎるよと、子静さまに止められました。確かに!
でも、かわいそうな周瑜、好き。



最後までお付き合いくださった皆様、ありがとうございました。
まだまだ至らぬところもあったかと思いますが、
これからも読んで頂けるとうれしいです。

そして子静さま、ありがとうございました。
策ちゃんかっこよすぎだよ、何度その腕によよよと落ちようかと思ったか。
どぞ、今後ともよろしくお願いします!
またやりましょうねー。
| 田丸まひる | - | 14:41 | comments(2) | trackbacks(0) |
jurer あとがき(張河)
これにて、リレー小説jurerは完結です。
結構長く続いたなーと思うような、あっという間に終わったなーと思うような・・・。でも、いっぱい焦って書いたところもあるので、やっぱり短かったかな。もっとじっくり、小説内の時間も長くつかって(1ヶ月とか半年とか)書きたかった気もします。書き始めた頃は、太史慈との一騎打ちくらいまで書いて、子義だそうかなーとか考えてたんですよ。子義なんか絡めだしたら、本当終わらないって!!!!!(爆)即効やめました(笑)
とりあえず、今はこれが精一杯・・・ええ、精一杯書きました!

この話を書き始めるにあたって、まひる氏と最初決めたことは、私が孫策視点で、まひる氏が周瑜視点で書き、孫策が周瑜に「好き」と言わせられたら目標達成終了!ということでした。なのに、第8話の時点で、心からではないけれど「好き」と言われてしまった。えー・・・・みたいな。
それで、途中から目標を孫堅と似ていないと言わせること、孫策を個人として見てもらうことに変更したわけですが・・・・・・・。
とりあえず、最終話までには書けたのではないかな、と思っています。最終話に無理やり詰め込んだ、とも言いますが(あわわ)
孫策の孫堅にはない特別な部分。それは、最後に孫策が言っていますが、友達でもある、ということだと思うのですよ。兄弟のよう、という点では対抗するものとして父子のよう、という部分を孫堅は持っているのですが、孫堅と周瑜ではどうしても友達という関係にはなりえない気がするのです。
だから最後にどうしてもこれは主張したかった。実は、恋人としての付き合いは本当に白紙にして、ただの友達の関係に戻してしまおうかなとも思ったりしてました。ただの友達だった、子供の頃のように。
だって、ひょっとしたらjurerの周瑜は孫策とは友達の関係が一番心地よかったかもしれないのです。(まひる氏の考えは分からないけど)そばにいるだけなら友達でも十分可能です。むしろ、それだけなら友達の方が傷つかないで済むことがいっぱいあるのではないかと思うのです。
まひる氏の周瑜は「好き」や「そばにいて」とは言っても、一度も「愛している」とは言わなかった。だから一層、周瑜の「好き」はやっぱり友達としての「好き」だったのかもしれないという考えが無駄に湧き上がったり。
実際は分かりませんが。私は孫策の気持ち側しか分かりませんから。どうなんですか、まひる氏ー。
ともあれ、最終的に20話にて、周瑜が自分から口付けをしてくれたので、恋人でもいいかーということで、恋人としてもつき合わせていくことに決めました。今は、友達以上恋人未満ちっくな二人ですが、話の先では、いちゃこら愛し合ってくれることでしょう。ははは。

あとがきをあんまり長く語ってもあれなので、これにて。
(つーか、十分なげぇ!?うわー読んでくださった方すみません)
付き合ってくれた田丸まひる氏どうもありがとう。
読んでくださった皆様方も、どうもありがとうございました!
| 張河子静 | - | 01:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
jurer 最終話(張河)

 誓いとちがう愛情をもって、君に会そう。
 だけど、分かっておくれよね。
 誓いとちがうが誓いにちかい。



 周瑜が自分のもとに馳せ参じたと聞いた時、俺はやはり来てくれた、と思わずにはいられなかった。


 周瑜が、まっすぐまっすぐ、俺を見る。
 「死が二人を分かつまで、そばにいて」
 もう誓わない彼が、とても真摯に俺を見た。
 「それは、先に俺がお前に頼んだ事だ」
 唇の、柔らかい感触に酔うかと思う。
 「そうだね。・・・そうだね」
 雨足過ぎて、静寂。
 沈黙が、恐ろしい時期があったのだ。
 こんな、穏やかな沈黙がある事を、忘れていた。
 何も知らない頃は知っていた事を、忘れていた。
 「俺のそばに、いてくれるか?」
 周瑜が、握った手に力をこめる。
 笑おうとして、失敗した顔をして。それでも息を吐いて、頷いた。
 「うん。・・・そばにいる。伯符は?」
 「いるよ。いさせてくれ」
 笑おうとして、失敗した顔になる。
 二人して、ちょっと涙ぐんで、互いを想い合って、抱擁する。
 これは大切だ。
 俺の大切なものだ。
 何も知らない頃に知っていた事を、思い出した。
 生涯、大切なものだ。



 「公瑾、ちょっと外出てみろよ。星が綺麗だ」
 すっかり雨も止んで雲もはれた空を見上げる。
 満天の星というのだ。月も、綺麗だった。
 「ほんと、綺麗だね」
 長い裾を引きずらないように気をつけながら、周瑜は出てくる。
 「寒くないか?」
 小さく問えば、大丈夫だよと笑った。
 肩を抱き寄せて、腕の中に包み込む。
 体温が心地よいということも、思い出した。
 「おや、伯符様もおられるね」
 ほんの少し欠けた十六夜を見上げ、周瑜は言う。
 俺が昔よくした自慢話を、しっかり覚えているらしい。
 「あれはお前を見守るための化身だからな。いなきゃ困る」
 やっつけ、少し俺は苦笑しつつ言った。
 きろりと周瑜がこちらを見る。
 「・・・何だよ」
 「ふぅん。でも、お月様は薄情だからね。欠けたり満ちたり消えたり隠れたり。あまりアテにならないかも」
 「む」
 月に目を移す。十六夜。早速欠け始めた月が煌々光っていた。
 「うーむ、そうだなぁ。俺も結構、薄情者だからなぁ―――・・・」
 月明かりに周瑜が浮かぶ。意地の悪いことを言う俺を、意地の悪い目で見上げていた。
 「ひどいな」
 「おう。だからさお前、もし俺がさっさとお前を置いてったら、別に俺に操立てなんかしなくていいからな」
 くしゃくしゃに周瑜の髪を撫でる。
 周瑜は少しだけ不敵に笑って、腕からすりぬけた。
 「分かってるよ。そんな薄情者、あっという間に忘れてやるんだから」
 「や、少しくらい覚えててくれてもいいだろ」
 軽い不満の声に、周瑜が裾を翻す。
 月下美人、まるで踊るようだ。
 「あはは・・考えておくよ」
 そうして笑う。屈託なく笑う。
 ああ、まるであの頃、そのまま。
 そっと近づいて、滑らかな頬に手を添える。
 「・・・そういうお前の笑った顔、本当に久しぶりに見たな」
 くすぐったそうに、周瑜ははにかんだ。
 「伯符」
 「やっぱり、すごく、綺麗だ」
 もう見れないと思っていた。
 きらきら、君が笑う。
 この星空のように、きらきら笑う。
 添えた手に、周瑜の手が重ねられた。
 「・・・俺はやっぱり、父上に似てるか?」
 「そうだねぇ、・・・やっぱり似てるかな」
 「そっか」
 「うん。でも、伯符は伯符だって、漸く分かった。
  ―――・・・貴方は、今私が一番大切だと思っている、孫伯符だよ」
 また、周瑜はまっすぐまっすぐ、俺を見る。
 お前も、逃げないんだな。
 もう、誓わない。
 それでも生涯大切なひと。
 「俺とお前は、義兄弟で、恋人で。それからかけがえのない親友だ。こんな相手、きっと生涯一人きりだよな」
 「うん」
 

 誓わない関係なんて、それはまるで“友達”のようだけれど。
 そんな間柄でいられるのは、きっと俺だけだから。
 やっぱり俺は、俺である事を誇りに思うよ。
 「明日から、またよろしくな、親友!」
 満天の星空。世界はこんなにも、煌めいている。





                      完
 
| 張河子静 | jurer | 23:35 | comments(0) | trackbacks(0) |
jurer 第20話(田丸)

 絶対に誓わないと、伯符は言った。
 誓いも許しも、もういらないのだと。
 誓いが、私をずっと束縛してきたのだと。

 救われる。
 こぼれた涙を、掬われる。

 でも、伯符。私は、束縛なんて怖くない。苦しくなんて、なかった。
 ――怖くない?
 ――苦しく、なかった?
 言いかけたくちびるをふさがれる。
 「同じことを繰り返して、お前を苦しめるのは嫌だ。だから、俺は誓わない」
 なんでそんな、穏やかに笑える。
 「そのくせ、一緒にいて欲しいなんて、やっぱり自分勝手かな」
 「伯符……」
 自分勝手なのは、私だ。
 背中を抱きしめてくれる腕を外して、長い指を探す。
 指をからめると、ぴたりと繋がったような気がする。
 額に押しつけると、安心できたのです。
 「伯符は、自分勝手なんかじゃないよ」


 文台さまは、私に誓ったわけじゃない。
 ずっと瑜をおそばにおいてくださいますかと、聞いたときにも、困ったように笑っていた。
 分かっている。戦に命をかける者が、そんなこと約束できるわけない。
 だから、誓ったのは私だ。
 いつまでも文台さまのそばにいると。
 生きるときも死ぬときもご一緒しますと。
 無理やり誓ったのは、私だ。
 「瑜、自分で自分を束縛するな」
 「違います。束縛なんかじゃない。瑜が、こうしたいのです」
 「お前が苦しむ姿など、」
 「見せません」
 きつくからめた小指を、離さないでいてくれたこと、どんなに嬉しかったろ。
 「だが、瑜、後追いだけはするなよ」
 あれは苦笑じゃなくて、心からの笑みだった。
 今の伯符に似た、穏やかな笑い方。
 「なぜ?」
 「俺が望まぬ」
 「……御意」
 だから、今も、生きながらえている。
 だから、もう一度、今度こそ、伯符と。


 ――文台さま、瑜は、

 「もう、誓い、破ってもいいんだ、公瑾」
 からめあった手を、孫策も自分の額に押しつけていた。
 二人して、祈るようなかたちになる。
 でも何も祈っていない。何も、誓っていない。
 「だから、公瑾、誓いなんて関係なしに、」
 ――瑜は、
 「伯符、」
 「公瑾?」
 いきなり言葉を遮られて、孫策が怪訝な顔をする。
 その額に、今度は自分から額を押し当てた。
 「もう、一人にしないで、」
 「……公瑾」
 孫策の目尻が歪む。そうじゃない。
 でも、嗚咽でうまく喋れない。
 「っ、なんて、もう、言わないから、」
 ――もう誓いません。
 「そばにいて」

 「死が二人を分かつまで、そばにいて」
 まっすぐまっすぐ、見据えた。


 受け入れるのではなく、自分から押しつけた唇は、柔かった。
 気づいたらもう、雨がやんでいた。
 静か、だった。


                 続く
| 田丸まひる | jurer | 23:22 | comments(0) | trackbacks(0) |
jurer 第19話(張河)


 簡単にこぼれ落ちるんだ。
 それは、自分にとって周瑜の心のようなものだった。
 何度も。掴めず、掴めず、こぼれ落ちた。
 今も思う。掴めているのか、またこぼれ落ちるのか。
 周瑜の髪は、とても綺麗に、こぼれ落ちた。


 だけど、ああ、俺はいつも己のことばかりで気付くのが遅い。
 「だったら、誓って」
 こぼれ落ちていくものをどうすることも出来ずに。
 ひたすら嘆いてきたのは、周瑜の方なのだ。
 恐れてきたのは、周瑜の方なのだ。


 手を伸ばす。
 細い肩に触れる。
 僅かに、震えていた。
 「伯、符」
 引き寄せる。
 抱き締める。
 震えはおさまらない。
 「公瑾」
 頭を撫でる。
 背中を撫でる。
 細い息が吐かれた。
 誓いにちかい情をもって、周瑜を愛そうと決めていた。
 けれど決して誓いはしないのだと、決めていた。 
 「・・・誓えば、お前は安心するのか?」
 周瑜の額が、胸に押し付けられる。
 答えなかった。
 「いつでも誓ってやる。それでお前が、幸せになるのなら」
 息を殺す周瑜は苦しそうで、何度も背中を撫でる。
 答えは求めない。
 俺は分かっていて、言っている。
 「だけど、そうじゃないんだろう?」
 周瑜の顔を仰向かせる。
 目を合わせた。逸らすことを許さずに、手を添える。
 黒い、赤い、光を目尻で弾く、目。
 あの日の目も、このようだった。
 俺が決して誓わないと決めた日の。

 「だから俺は、絶対に誓わない」

 周瑜の顔が、崩れた。
 「・・・いや、だっ・・・」
 絞り出すような悲鳴をあげて、周瑜は溜め込んでまだ涸れない涙を流す。
 「そうしたら・・・・私、どうしたらいいのか・・・分からないよ」
 周瑜の手が背中を抱く。服ごしからでも爪が食い込んだ。
 「公瑾」
 「誓って、・・・誓ってよ・・・」
 「公瑾」
 「どうして、」
 あのな。
 俺はあの日、憎んだのだよ、公瑾。
 お前を、このようにした。
 誓いというものを、俺は憎んだのだ。
 誓いがお前を、このようにした。
 そうだろう?
 かように、かように、ひどい束縛を。
 「俺は・・・誓いを破りたいんだ」
 上手く伝わらなかったかもしれない。
 だけど周瑜は目を見開き、唇をきつく結んだ。
 俺は、誓いを破りたい。
 そうしなければ、お前はまたこぼれ落ちてしまうだろうから。
 それはとても強靭なもので、楽に破棄せられないものではあるけれど。

 伯符が私を愛してくれるのと同じように、愛するなんて許されますか。
 愛していいのかどうか分かりません、文台さま。

 誓約は制約。
 いつまで守ってりゃいい。
 いつまで父に、許しを請えばいい。
 もう時効だ。それを俺が、教えてやる。
 周瑜の頬に流れる、とめどない涙を拭った。
 よく聞け。
 俺は今から、お前達の誓いを否定する言葉を吐くから。
 「愛していいんだ。愛されていいんだ。許しなんか、いらないんだ。誰も・・・お前を責めたりなんか、しないから」
 もし、俺が誓い、それでもお前を置き去りにしたら、今度は誰が我々の誓いを破ってくれるだろうか。
 誓えばお前は、俺を一途に想ってくれるのかもしれないけれど。
 同じ思いは、させたくない。
 「伯符、私、は・・・」
 唇で、言葉を塞ぐ。
 愛しいな。

 あの頃、俺は自分のことしか考えられない子供だった。
 今、お前を一番に考えてやりたいと、思う。
 「同じことを繰り返して、お前を苦しめるのは嫌だ。だから、俺は誓わない」
 だから、お前も誓わなくたっていいよ。
 父を愛したように、愛してくれなくたっていいよ。
 「そのくせ、一緒にいて欲しいなんて、やっぱり自分勝手かな」
 ただ、お前を愛しく想う、俺の気持ちだけ認めてくれ。


 誓いとちがうが、誓いにちかい程、お前のことを愛しているよ。



                         続く
| 張河子静 | jurer | 00:42 | comments(0) | trackbacks(0) |
jurer 第18話(田丸)


 目は、覚めていた。
 それでも孫策が戻ってきたときには、眠っているふりしかできなかった。
 どうやって向き合えばいいのか、分からなかった。
 だから、孫策に手を握られて問いかけられても、ずっと目をつむっていた。
 「どんな、気持ちだった?」
 苦しい。孫策の細かい震えが伝わってくるのが苦しい。
 孫策に会わない間、自分がどんな気持ちでいたか思い返すのが苦しい。
 孫策の手の温かさが、愛おしい、なんて。
 「でもどんなに辛くても、お前がいないのは寂しかったな」
 寂しかった。
 ひどいことをしたとか、もう許されないだろうとか、思っていた。
 でも、それ以上に、なんて勝手だったんだろ、寂しかった。
 自分で終わりにしたくせに。
 寂しい。
 目の奥が痛い。
 孫策の手の力が少しだけ強くなったとき、崩れた。

 「…たし、だって…寂しかった…っ」
 「公、瑾」
 震える。手も、睫毛も、声も。
 頬が生温かい。切り裂かれるみたいに痛いのに、安堵している自分がいた。
 寂しかった。寂しかった。
 自分の半身をもぎ取られたみたいだった。
 伯符も同じように寂しいだろうかと、許されもしないのにずっと考えていた。
 伯符と離れていたことなんて、なかったのに。
 「俺のこと…考えて、くれていた?」
 「ど、どれ程考えたとっ…思ってる!」
 ひりひり痛い目尻に、孫策の唇が触れる。
 なんでこんな、気持ちいいんだろう。苦しいのに、心地よかった。
 もう、このままでいいですか。

 「引き留めてやれなくてごめんな。追いかけてやれなくてごめんな。迎えにいけなくて、ごめんな」
 「伯符……」
 伯符に、こんな風に謝られたのなんて、初めてだった。
 「ごめんな」
 ここに来てから、いちばん真剣なまなざしだった。
 ああ、もう。
 「はくふ、はくふ……」
 もう、このままでいい。
 孫策の襟元にしがみつく。こんなに強く握りしめて、離さないつもり。
 気づいたら、声を上げて泣いていた。
 孫策の手が、背中に回されていた。大きな手のひらを、失いたくなかった。
 誰かに気づかれてはいけないと噛みしめたくちびるは、簡単にふさがれる。
 今まででいちばん優しい口付けだった。
 これを、手に、入れたら。


 「落ち着いたか」
 「ええ」
 どれほど泣いていたか。
 ようやく泣きやんだ私の額に、孫策の額が重なる。
 「熱、まだ少しあるな」
 「泣いた、から」
 くしゃくしゃになった髪を、孫策の指が梳いてくれる。
 「お前の髪、すぐに元に戻るのな」
 「うん」
 「簡単にこぼれ落ちるんだ」
 さらさら、さらさら。
 ずぶ濡れになっていたのが嘘みたいに乾いた髪が、孫策の手からこぼれる音がした。
 「もう、俺のそばから離れるな」
 「伯符、」
 怖い。
 「公瑾?」
 一瞬、顔を歪めたのを孫策は見逃してくれなかった。
 「いやか?」
 孫策の眉がひそめられる。
 私はいつまで、伯符にこんな顔をさせるつもりなんだろう。
 「……そうじゃない」

 「だったら、ずっと俺のそばにいてくれ」
 ずっと?
 「だったら、」
 「公瑾?」
 そばに?
 「だったら、誓って」

 私を一人にしないと、誓って。


 手に入れたら、またなくしますか。


                   続く
| 田丸まひる | jurer | 20:39 | comments(1) | trackbacks(0) |
jurer 第17話(張河)
 「雨、止まねぇなぁー」
 いくつもできた雨潦を蹴散らす。
 あの頃も、こんな日が確かにあった。
 周瑜が父に耳を塞がれて眠る頃、俺は一晩中まんじりともせず。
 不確実な夜明けを迎えたものだった。
 雨が止まずに暗いままの、そんな、うろんな朝だった。



 互いに、自分のことしか考えられない子供だった、と思う。
 周瑜は一つも、自分のことを分かってくれなかった。
 自分は一つも、周瑜のことを分かってやれなかった。
 『大丈夫。伯符は伯符のことをしなよ』
 従軍後、多分、こういうことを言われたのが一番腹が立った記憶がある。
 あんまり腹が立って、この台詞だけはやたらとしつこく覚えているのだが、周瑜が知る由もない。
 俺に気遣うような、まるで分かっていやしない言葉が、他のなによりむかついた。
 周瑜は俺を、何一つ分かっちゃいなかった。
 周瑜は俺を、何一つ分かろうとしてくれなかった。 
 「でも俺も、分かって欲しいと思うばかりだったなー・・・」
 人のいない場所を探して、最終的に厩にもぐる。
 そういえば、子供の頃も一人になりたいときはよく来ていた。
 「あいつのこと、分かりたくなかったもんな」
 周瑜の鹿毛がいたので、鬣を撫でてやる。優しい目の、馬だった。
 「お前の方が、よく分かってそうだよな」
 俺は今でも分からん。
 低く呟くと鹿毛が小さく鳴く。もう一度撫でると、なつく仕草をした。
 でも今は、分かってやりたい。
 答えが、欲しい。
 このままでは、苦しい。
 答えが、欲しい。
 何だか、泣きそうになってきた。
 「お前のこと・・・分かりたい」
 やっぱり。たまらなく、愛しい。
 だから、答えを。




 「公瑾、起きてるか?」
 返事はない。まだ寝ているのかと、少しだけ持ってきた食物を卓に置いた。
 幕舎は暗く、燭台を探す。 
 周瑜の眠る、寝台の前にあった。
 「寝てる、よな」
 明かりを灯すのはやめ、周瑜の顔を覗き込む。側に座り込み、思い立って、手を握った。
 さっきは、突き放した手だった。
 幼すぎた頃には、離れないと思っていた手だった。
 「・・・細いな、ちゃんと食ってたのか?」
 強くすると折れそうで、できるだけ優しく握る。
 あの頃は力一杯握ったって、まだ大丈夫な気がしていた。
 変わってしまったのは、どちらの方なのだろう。
 「俺に会わない間、何してた?」
 返事はないと、知りつつ聞く。
 返事はないと、分かっていたから聞けた。
 再会してすぐに尋ねそうな質問は、そういや何も聞いてない。
 「どんなことを、考えていた?」
 いつの頃からか。俺は周瑜に問うことを、恐れ始めた気がする。
 望むような答えは得られないのだと決め付けて、問うことを避けた。
 「どんな、気持ちだった?」
 その代償が、別離だった。結局俺は、何も分からないまま。
 「俺は・・・寂しかったよ。苦しくて、離れたくて、お前が去ったときにはほっとした。でもどんなに辛くても、お前がいないのは寂しかったな」
 周瑜の手を握る手が震える。
 こういう情けないところだけ、多分父とは違うんだろう。
 周瑜を理解できていた父とは、違うんだろう。
 だから、周瑜の手も震えていたことにも、気付けなかった。
 雨の音が、消える。
 消えたように、思った。
 
 「・・・たし、だって・・寂しかった・・・っ」
 
 頭を上げる。
 顔を褥に押し付けて、周瑜は震えていた。
 「公、瑾」
 「私だって・・・寂しかったよ」
 声まで震わせて。
 まるで、泣いているような声だった。
 泣いているのかもしれない。再会した後、どんなひどい言葉を投げつけても泣かなかった、周瑜が。
 「それは・・・父上が、いなくなってしまったから?」
 顔が見たくて褥をを引くと、周瑜は捕らわれない方の手で咄嗟に隠した。
 赤い唇が、戦慄いている。
 「伯符がっ・・・いなかったからっ、だよ。文台さまとは会えない時はたくさん・・ったけど、伯符と離れたことなんかっ、なかったじゃないっ」
 手を強く握り締める。折れない。弱いけれど、握り返してくる手は過去の過去にしか、覚えのないものだった。
 目の奥がじくじく熱い。
 泣き出さないように、奥歯を噛み締めた。
 「俺のこと・・・考えて、くれていた?」
 ――――ああ、もういいよ。
 「ど、どれ程考えたとっ・・思ってる!」
 どんなに傷ついても、力一杯愛したい。
 分からずにはいられない程、愛してやる。
 「俺、お前に言わなくちゃいけないことがある」
 手をどけて、赤く滲む目尻に口付けを落とす。
 「引き留めてやれなくてごめんな。追いかけてやれなくてごめんな。迎えにいけなくて、ごめんな」
 もう俺は逃げないから。
 お前のことを、教えて欲しい。



                  続く
| 張河子静 | jurer | 01:11 | comments(0) | trackbacks(0) |
jurer 第16話(田丸)


 自分は、振りはらおうとした手だった。
 自分は、離したくないと思った手だった。
 離されたくない。
 伸ばした手は、簡単に突き返された。
 「ちゃんと寝てろよ」
 目を閉じる、できる限り強く。
 「うん、」
 孫策が外に出て行くまで、その足音を聞いていた。
 きりきり、きりきり、目の奥が熱い。
 目を閉じる。何もこぼれないように。


 二人ともまだ幼さが抜けきっていなかったころ、私が熱を出すたびに、孫策が様子を見に来ていた。
 「伯符、風邪だからうつるかもしれないよ」
 「大丈夫だって。お前の風邪がうつるほど柔じゃない」
 「でも、」
 「いいからお前は大人しくしてろ」
 ことあるごとに熱を出す私のそばには、いつも伯符がいた。
 私や家人がいくら止めてもだめだった。
 「冷たいの、額に当てとくと気持ちいいだろ」
 屈託なく笑う孫策を見ていると安心して、でも自分ばかり熱を出すことが悔しかった。
 「だからって、伯符が替えに行ってくれなくていいのに」
 少しでも拗ねた様子を見せると、軽く汗ばんだ髪をくしゃくしゃにかき混ぜられる。
 「いいんだよ。俺がやりたくてやってるんだから」
 「……ごめん」
 「謝るなよ」
 「うん」
 うれしいと、伯符がそばにいてくれてうれしいと、素直に思っていた。
 だってそれ以上のことなんて、なかった。
 「俺がそばにいるから、な」
 「うん」
 「大丈夫だからな」
 「うん」
 眠りにつくまで、たぶん眠ってしまってからも、ずっと手を握っていてくれた。
 ずっと手を握っていた。
 「早く治せよ」
 このままずっと、そうしていくのだと思っていた。
 文台さまが現れるまでは。従軍するまでは。


 「なんでだよ」
 伯符は、怒っていた。
 「なにが?」
 私は、分からなかった。
 「なんでお前が熱を出したら、父上のところで寝るんだよ」
 決して激情にまかせていたわけじゃない。
 ひと言ひと言絞り出すように、孫策は怒っていた。
 「だって文台さまがそうしろっておっしゃった」
 でも、分からなかったのだ。
 どうして孫策がそんなに怒っているのか、分からなかったのだ。
 「お前の看病は、俺がするのに」
 「大丈夫。伯符は伯符のことをしなよ」
 なんで、気がつかなかったのだろう。
 「父上の方がいいのか」
 「なにが」
 「俺より、父上の方が好きなのか」
 泣きそうな顔をしていたのに。
 「そんなの、」
 私はもう違うものしか、見えていなかった。
 「そんなの、分からない」
 「なんでだよ、公瑾」
 なんでだろ。
 「公瑾、」
 「ごめんね」
 珍しくあっさり熱が引いたその夜、文台さまに抱かれた。
 私が望んだ。


 何を取り返せると言う。
 自分が手を離したくせに。
 右手にも、左手にも、孫策の手はもうなかった。
 どれほど眠っていたのか分からない。
 目が覚めても、一人だった。


                    続く
| 田丸まひる | jurer | 23:22 | comments(0) | trackbacks(0) |
jurer 第15話(張河)
 優しく、優しく突き放す。
 そうすることが、最後の矜持のように。




 どうしようもない矛盾の中に、身を置いているのだと言う自覚はあった。
 周瑜が腕にすがりつく。
 僅かな間でさえ、寂しかったのだと言わんばかりに離れなかった。
 「風邪を引いて、不安になったか」
 矛盾している。
 頭を振って否定する周瑜を、正直俺は持て余した。
 俺も、周瑜も。矛盾している。
 優しくされたくないくせに、優しくされないと壊れそうな周瑜と。
 いなくなって欲しいと願いながら、逃げる力を失った周瑜に安心する俺と。
 ここはひどく居心地が悪く、耐え難いほど心地よい。
 「むせないようにしろよ」
 白湯を持つ手に添えた手は、振り払われなかった。
 むしろ、もう片方の手で離れないよう阻まれた。
 何だろうな。この、耐え難い。
 「……ない、で」
 「なに?」
 器を置いた周瑜の手が、俺の袖を掴む。
 強く押し付けたせいで、指の先が白かった。
 「……に、ないで……」
 か細い声。
 蜻蛉の泣くような。
 しかし、俺は確かに聞いた。
 「・・・・・」
 この、耐え難い、心地よさ。
 この、耐え難い、優越感!
 「・・・・・」
 あ…あ、くだらなすぎる。弱みにつけ込んだ優越感か、反吐が出そうだ。
 周瑜は泣かない。でも、今にも泣き出しそうだった。
 
 一人にしないで。

 「……分からないよ、公瑾」
 こんな時だけ甘えるんじゃないよ。酷じゃないか。
 「公瑾」
 この優越感は危険だろ。今だけなんだろ。後で痛い目見るんだろ。
 ・・・だから、俺は突き放すよ。優越感ごと突き放さなくては。
 「聞こえない」
 それでも、お前が痛まないよう。
 優しく、優しく突き放す。
 俄かにはそうとは分からない程、優しく。
 頭を撫でて、抱きしめた。





 「一応、聞いとくだけでいいから」
 寝台の横に胡座を敷いて、竹簡をいくつか手に取る。軍の編成やら、輜重の配分やらがまとめられている分を、特に選んだ。
 「徳謀に、お前に軍の内情を確認してもらってるって言っちゃったからさ。もっと気の利いたことが言えれば良かったんだが、悪いな」
 苦笑すれば、周瑜が首を振る。
 一つ一つの事項にいちいち頷く様が、健気で可愛かった。
 たまに、何かを言いたそうに口を開くのを制止する。
 明日聞くから、と笑うと周瑜は少し釈然としない顔をした。
 「・・・何か、懐かしいな」 
 「・・・?」
 くしゃりと前髪を掻きあげて、褥を掛けなおしてやる。
 少し顔色の良くなってきた頬を撫でると、周瑜はくすぐったそうに身じろいだ。
 「従軍する前。お前、しょっちゅう熱出してさ。看病すんの、大変だった」
 「・・・・伯、符に。・・頼んだ・・ぼえ、なかったよ」
 「可愛くないなー」
 従軍する前。多分一番、幸せだった頃だ。
 「着替えるか?薬効いて、汗かいただろ?」
 周瑜の衣はまだ出していなかったので、自分のものを当ててやる。
 幸せだった頃には大差なかった体格が、確かな差を証していた。
 「ちっとでかいが、我慢、な」
 多分、俺はその衣を明日になったら捨てるんだろう。
 「伯符」
 「ん?」
 「・・・ありがとう」
 苦笑した。
 「そろそろ、寝た方がいいな。明日は庇えんぞ」
 また、髪を撫でて額に口付ける。
 体格はこんなに差が出来たけど。
 あの頃から出来ることは何一つ増えていないな、と思うとおかしかった。
 あの頃出来なくて、今出来ることがもしあるのなら、それは何なのだろう。

 優しく突き放す、ことだけだろうか。
 離れようとした瞬間、周瑜が無意識に伸ばした手を、俺はやんわりと褥の中に戻した。





                  続く
| 張河子静 | jurer | 23:04 | comments(0) | trackbacks(0) |
jurer 第14話(田丸)


 馬鹿か、と罵られた。
 足手まといでは困ると、断言された。
 それでも孫策は、馬鹿な足手まといを、まるで壊れ物を扱うように丁寧にぬぐった。
 どうしようもなかった。
 寒くて、喉が痛くて、孫策への謝罪もままならない。
 代わりに孫策の手を握りしめても、まだ寒いのかと新たな褥を掛けられた。
 「薬と白湯を取ってくる」
 優しく髪を撫でられても、何も言えない。
 「静かに寝てるんだぞ」
 一瞬だけ苦笑した孫策が、すぐに背中を向けて外に出て行く。

 怖かった。本当は怖かった。
 出て行こうとする孫策に、必死になって手を伸ばしたが、届かなかった。
 声が出ないせいで、気づかれもしない。
 怖かった。
 一人は。
 あのときと、同じ。


 それから孫策が戻ってくるまでの時間は、長かった。
 実際には、湯を沸かして、薬を用意してきただけなのだから、たいした時間ではないのだろう。
 でも、待つ時間ほど長く感じるものはないと、誰かが言ったか。
 眠れるはずなどなく、ただ褥の奥で膝を抱えていた。
 嫌な雨。足音が、全然聞こえない。
 孫策がいつ帰ってくるのかも分からない、不安ばかり感じていた。
 「公瑾、寝ているか」
 だから、孫策が薬と白湯を抱えて戻ってきたときにはもう、抑えきれなくなっていた。
 「公瑾、」
 孫策が持ってきたものを置く間も与えず、その腕にすがりつく。
 伯符の腕は、あたたかかった。
 思わず爪を立てそうになるのを、こらえた。
 「どうした、公瑾」
 反対側の手で薬と白湯を置いて、その手で孫策が私の髪を撫でる。
 乾いてきたな、火をつけてよかった、と軽く梳かれる。
 それでも手を離さない私を、どう思っただろう。
 「風邪を引いて、不安になったか」
 違う。そんなわけではない。
 そんなわけではないと、かぶりを振っても、あまり動くなと抱き寄せられる。
 違う。こんな風に、優しくされていいはずがない。
 それなのにこの距離を、これ以上広げたくなかった。
 「お前、苦いのは嫌いだったな」
 でも我慢しろ、と安心させようとする笑い声が聞こえた。

 目の奥がきんきんと熱くなる。
 でも、涙は出なかった。
 「むせないようにしろよ」
 白湯の器を持つ手に、手が添えられる。
 振りはらいたい。離したくない。
 「そんなに眉しかめて。苦いか」
 目の奥が熱いけど、涙が出なかった。

 「……ない、で」
 白湯を飲んでもからからの喉が、痛い。
 「なに?」
 「……に、ないで……」
 「分からないよ、公瑾」
 ひゅるりと喉が鳴る。
 「公瑾」
 一人にしないで。


                続く
| 田丸まひる | jurer | 13:23 | comments(0) | trackbacks(0) |
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